◆ 劇団空中サーカスVol.3 『アステカの少女』 ◆
座長の日記より
9月某日(土)
物持ちの良い(貧乏性とも言う)石英は、かれこれ6年も同じパジャマを着ている。
しかも、人のおさがりである。
蜂鳥は、赤いチェックのパジャマのズボンを、もっとオシャレな黒に染めようと思った。
その結果、不気味な沼色チェックのズボンが仕上がった。
もうはけない。
ようやく新しいパジャマを買う口実ができたものの、すでに夏は過ぎつつある……
(→この議案は次年度に持ち越し)
9月某日(土)
さわやか少年の黒曜石が、あくまでさわやかに、蜂鳥に注意した。
「パンツ見えてるよ」……思わず恥じらった蜂鳥であった。
10月某日(土)
大神官は時折昼寝をなさる。
その寝姿は、まさに現代ニッポンの住宅事情にマッチしたコンパクトサイズ。
「人間、立って半畳寝て一畳」
を実践している。
10月某日(木)
演出が帰宅すると留守番電話のメッセージランプがぴこぴこついていた。
「あのねっ、プロローグの曲ですっごいいいのが見つかってん。
もう名曲。
聞いたら感動するで。
その曲名は/ぷつっ。ツーツーツー。」
彼女の留守番電話の録音時間は短いのだった。
橋本亜紀作 ショートショート劇場
「この女をあとでよこしてくれ。」
岡田真澄(社長)は含み笑いを残して立ち去った。
役所広司(単なる係長)は、苦悩の表情を浮かべる松島奈々子(OL)の横顔を見やった。
彼はカウンターに歩み寄って、ブランデーグラスを黄金の液体で満たした。
「義兄上は君にご執心だ。」
窓辺に立ち、たそがれのダウンタウンを見下ろした。
「君は普通の生活を送れなくなる。」
役所広司は手の中でブランデーグラスを転がした。
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