◆ 劇団空中サーカスVol.9 『長恨歌』 ◆


けいこばにっき

九月某日「そして、ポスターは完成した」
 明が訪れたのは、とある版木職人の家だった。
「……その値段、もちっと負からぬか」
 真剣な顔つきで懇願する明の背中には、無邪気に笑む幼子がいた。子連れ狼のさむらいを見て、職人は、思わず顔をしかめた。
「馬鹿言っちゃあいけませんや。あっしらの口が干上がっちまわあ」
「無理を承知で申しておる。手前にも、食わせねばならぬ子供がいるのだ」
 とうとう、職人は折れた。
「いいでがしょう。今回は、あっしの負けでやんす」
「恩に着る」
 明の背中の子供は、相変わらず、きゃっきゃと声を上げて笑っていた。

九月某日「K男爵夫人の日常」
 K男爵夫人高子様の午後の優雅な過ごし方は、お昼寝である。今日も、稽古場の床にながながと伸びて、演出が「高子様。奥様。出番でございますよ」と呼んでも、ぴくりとも動かない。

九月二十一日「駒的日常」
 駒の誕生日がやって来た。その日は、いつもと同じ、変わりばえのしない一日だった。夜も更けて、寝間へさがろうとした駒に、高子が呼びかけた。
「駒、ちょっと」
 駒は立ち止まった。高子が、小さな包みを差し出した。
「誕生日、おめでとう」
 包みを開けると、駒に似合いそうな可愛らしい靴下(参足壱千円也)が、詰まっていた。駒の目から、涙がこぼれ落ちた。
「奥様。ありがとうございます。この靴下をはいて、駒は世界中どこまででもついていきます!」

十月某日「夫婦愛の象徴」
 駒が、高子の長台詞を聞いて、演出に質問した。
「比翼の鳥、連理の枝、て何ですか」
「高子様。国語の先生、昔とった杵柄で、ご説明お願いします」
 高子様は、瞬時に寝たふりをして、返事をなさらない。仕方なく、演出は口を開いた。
「どちらも白居易の『長恨歌』の一節だよね。比翼の鳥っていうのは、つがいでしか飛べないハンパな鳥で、二羽がジャキーン!と合体して初めて飛べる。ま、合体ロボットみたいなもんかな」
「合体ロボット…。連理の枝は何ですか?」
「根っこは二本なんだけど、上にいくに従って絡み合ってぐじゃぐじゃになってて、ま、ベンジャミンゴムの木みたいなもんかな」
「ベンジャミンゴムの木…」
「分かった?」
「はい、よく分かりました」
 納得するな、駒!!
 そんな説明でいいのか、演出!?


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