◆ 劇団空中サーカスVol.5 『God Save the Queen』 ◆


座長の日記より

 7月某日
 なぜか、台本が仕上がってしまった。 お祝いに、みんなで海に行くことにした。 朝、台所に降りていくと、母がうれしそうにおにぎりを作っている。 巨大な皿に、特大おにぎりが雪山のように積まれている。 「これ、何人分?」 「3人分」 いやな予感がした。 ふと流しを見ると、卵の殻が10個分ほど打ち棄てられている。 3パックの鶏肉に唐揚げ粉をまぶす母。 畑で自作した巨大キュウリをざくざく切る母。 カリフォルニアオレンジをえんえんむき続ける母。 新車に乗ってEが迎えに来た頃には、重箱8段分くらいの豪華愛母弁当が完成していたのだった。

 8月某日
 音響姉妹の実家で、稽古をする。 ゴージャスなバンブーベンチに演出が座り、いざ稽古を始めようとすると、必ず誰かが邪魔をする。
「巨峰だよ〜ん」と現れる母。
「おばちゃん、何してんの〜?」と寄ってくる甥ども。
「コーヒー牛乳なんか、どう?」とにこやかに勧めるお姉さま。
たらふく食って、胃袋が満たされると、けだるくシェスタをとってしまう。 稽古は全く進まない。

 9月某日
 まじめに稽古している。 あの怠惰なMが『声優の教科書』とか何とかいうテキストを持参して、毎日「ういろう売り」を唱えている。 台本を早く仕上げたこともあって、何か天変地異が起こりそうでこわい。

 10月某日
 今日は嵐だった。 「人柱だ!」 と姫が叫んだ刹那、ピカッ。ちゅどーん。 真っ暗になった。 とってもいいカンジである。 ほほえむN。

 10月某日
 道化師は、笑わぬ姫にてこずっていた。 演出も、笑わぬ姫にてこずっていた。 稽古が終わるとうるさいくらい笑う、いつもゲラゲラ笑っている、なのに肝心の場面でなぜ笑わない。 発声練習に組み入れてもみたが、演出と道化師ばかり、高笑いがうまくなっていく。 今日も緑豊かな三田の街に、演出Nのほがらかな高笑いがひびくのであった。

 道具事始
 八月十五日ばかりの月に出でゐて、姫いといたく泣きたまふ。 人目も、今は、つつみ給はず泣き給ふ。 これを見て、親ども「何事ぞ」と問ひさわぐ。 姫、泣く泣くいふ、
「狐様より、五尺一寸の青竹を参らせよとの仰せ、いかで叶へむ……」
翁、東河山へ行きて青竹をなむ取りける。姫、また泣く泣くいふやう、
「狐様より、五尺一寸の青竹を二つに割れとの仰せ、いかで叶へむ……」
翁、車置場にて鉈を用ゐて竹を割り、節をなむ取りける。
「狐様より、竹を切りて透垣を作れとの仰せ、いかで叶へむ……」
翁、竹の枝を荒縄で結ひて透垣を作れり。
「狐様より、てんじやうてんぐゎゆいがどくそんと文字に書きて掛け軸を作れとの仰せ、いかで叶へむ。 我が手はつたなきなれば……」
嫗も出で来ぬ。 大きなる筆をおろして、惑ひ騒ぎつつ、文字に記すやう、
「天上天下唯我独尊」
姫、やうやく笑ひ給ひぬ。


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