◆ オリジナル台本 『スタートライン』 ◆

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題名 スタートライン
作者 山本真紀
キャスト 2人
上演時間 20分
あらすじ 親子三人で暮らしていた家庭からお父さんがぬけるとき……。 離婚家庭をかろやかに描いた一幕物。

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注意事項



スタートライン



○登場人物

  桃子
  優子

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   『スタートライン』 作・山本真紀

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    とあるマンションの一室。
    居心地の良さそうなリビング。
    テーブル、戸棚、テレビ、コンポなどが置かれている。
    戸棚の上には、写真立てがあり、家族三人の写真が入っている。
    
    テーブルに向かって、書き物をしている少女、桃子。
    姿勢が悪い。
    
    母、優子が入ってくる。
    
優子「桃子。出来た?」
桃子「ううん、まだ」
優子「そんなに難しく考えなくていいよ」
桃子「ううん。難しいの」
優子「見せて」
桃子「やだ。出来るまで、見ないで」
優子「分かった」
    
    間。
    
優子「コンポ、また買わなきゃね」
桃子「別にいいよ」
優子「そう?」
桃子「CD聴いてるの、お母さんじゃない」
優子「桃子は聴いてないの?」
桃子「聴いてない。ざつ音だと思ってる」
優子「教育のためって思ったんだけどなあ・・」
桃子「そういうこと、けっきょくはためにならないんだよね」
優子「そうだね。ピアノも、」
桃子「待った! ピアノの話はなし!」
優子「どうして?」
桃子「あれは、出来心だったの! ちょっとはやりの歌とか、弾け
  たらいいかな、て思ったの。でも、向いてないって分かった」
優子「向いてないかどうか、三年くらいやってみなきゃ分からない
  じゃない」
桃子「三年? 三年もやったら、私おばあちゃんになっちゃう」
優子「おおげさね」
桃子「お母さんにとっては、四十分の三だけど、私にとっては、十
  二分の三なわけで、そしたら、四分の一だよ? 人生の長い長い
  時間を使って、へたなピアノやってるの、いやになったの」
優子「月謝、高かったよね」
桃子「すぐそういうこと、言うんだから」
優子「ごめん、ごめん」
桃子「習字だって、うまくならない」
優子「でも、続いてるじゃない」
桃子「続いてるだけで、賞とったことないもん」
優子「のし紙とか、封筒の表書きとかしてくれて、助かってるよ」
桃子「そんなの、大人の勝手」
優子「役に立ってると思うよ」
桃子「私、習い事に向いてないと思う」
優子「そう?」
桃子「だから、私、勉強するの」
優子「え? 勉強?」
桃子「そう。勉強して、かしこくなって、女医さんになるの」
優子「女医さん?」
桃子「そう。産婦人科の女医さん」
優子「産婦人科?」
桃子「妊娠です、おめでとうって言うの、いいじゃない。ガンです、
  お気の毒ですって言うお医者さんよりずっといい」
優子「ああ、なるほどね」
桃子「ねえ、向いてると思う?」
優子「さあねえ。三年くらい、勉強してみて、向いてるかどうか、
  分かるんじゃないかな」
桃子「また。お母さん、そればっかり」
優子「今度は、ちゃぶ台にしようか」
桃子「ちゃぶ台って、何?」
優子「サザエさんちのテーブルみたいなの」
桃子「あの、円いやつ?」
優子「そう」
桃子「正座しなきゃいけない?」
優子「そうねえ・・」
桃子「じゃあ、やめとく」
優子「足にはよくないって言うものね」
桃子「よくないと思うなあ」
優子「じゃあ、やめとく」
桃子「お母さん、私のまねするのやめて」
優子「ごめん、ごめん」
桃子「もう」
優子「本だなも、買わなきゃね」
桃子「私、自分用の本だなが欲しい」
優子「専用の? カラーボックスじゃだめ?」
桃子「カラーボックスって、教科書しか入らないもん。もっと、本
  とか買いたいし、小物とかも置きたいし」
優子「そうねえ。買ってもいいね」
桃子「買ってくれる?」
優子「いいでしょう」
桃子「やりい」
優子「桃子の部屋、かぎつけようか」
桃子「子どもの部屋にかぎをつけると、家族の会話がなくなるって、
  PHPに書いてあった」
優子「会話、するよ」
桃子「かぎはいらないから」
優子「そう」
桃子「だいたい、お母さんの部屋にもかぎがないのに、私の部屋だ
  けつけたらおかしいよ」
優子「そうか」
桃子「お母さん、あっち行ってて」
優子「お母さん、じゃま?」
桃子「うん。ちょっとじゃまかな」
優子「そう。じゃあ、またあとでね」
    
    優子、部屋を出て行く。
    
桃子「九月二十三日、晴れ。所持金五千六百八十七円。自立への道
  は、まだまだ遠い。お父さんとお母さん、どっちについていく?
   て聞かれても、答えられない。かってに決めてくれて、助かっ
  たけど。最近、かってに決められることが多いなあ。お母さんは
  気を使って、いちいちどうでもいいことを私に聞く。本当に、ど
  うでもいいことばっかり! おとなって不便だなあ・・子どもも、
  不便だけど。ああ、こんなこと書けない!」
    
    電話が鳴って、桃子、電話を取る。
    
桃子「もしもし。・・何だ、トオル君。え? 電話を取ったら名字
  を言えって? それイヤミ? ・・ううん、何でもないの。ちょ
  っと、むしゃくしゃしてるから。うん、調理実習のお米? 一人
  〇・五合だよ。忘れたら、ごはんなしだよ。おかず? おかずは
  食べられるけど。電話したんだから、忘れないよね。ああ、かぜ
  ? うん、もう大丈夫なの。これからも、ちょくちょくかぜをひ
  くと思うからよろしくね。どういう意味かって・・考えないでよ。
  私にも分かんないんだから。そう。じゃ、また明日、学校でね。
  バイバイ」
    
    テーブルに戻って、また書き始める。
    姿勢が悪い。
    
桃子「本当に、大人ってかってなんだから!」
    
    桃子、ドアをあけて叫ぶ。
    
桃子「お母さん、出来た!」
    
    優子が入ってくる。
    
優子「もう、出来たの?」
桃子「カンペキ」
優子「見ていい?」
桃子「どうぞ」
    
    優子、ノートを取り上げながめる。
    
優子「二人ぐらしの交換日記・・なるほどね」
桃子「なるほどね、てどういう意味?」
優子「いいと思う、て意味。お母さん一人になっても、桃子にさび
  しい思いをさせない」
桃子「私、さびしくないよ」
優子「お父さんとお母さんが別れるのは、桃子には責任のないこと
  だよ」
桃子「そんなの、分かってる」
優子「本当だってば」
桃子「私がいなかったら、もっと早く別れちゃってたでしょ?」
優子「そうね。そうだと思う」
桃子「私がいたから、がまんしてたんだ」
優子「それは、否定しない。でも、桃子がいたから、結婚生活がう
  まくいく部分もあったと思う」
桃子「うまくいってないじゃない」
優子「最終的にはね。ねえ、桃子。桃子はずっと素敵な子だったよ。
  いけないのは、お父さんとお母さん。二人の間の問題。お父さん
  とお母さんがうまくいけばよかったのにね。・・小田っていう名
  字、好き?」
桃子「好きもきらいも、生まれてからずーっと小田さんだったもん」
優子「お母さんはね。違うの。生まれてから、結婚するまで、竹内
  さんだった」
桃子「知ってる。秋田のおばあちゃんの名前」
優子「お母さんの名前は、本当は竹内さんなんだよ」
桃子「じゃあ、今の名前は芸名みたいなもんなの?」
優子「そうかも知れない。電話を取るたびに、小田ですって言うの
  に慣れていくの、こわいような気がした」
桃子「こわいの?」
優子「自分じゃない人になっていくみたい」
桃子「いやなら、そんなことしなきゃいいのに」
優子「でもね、今の法律では、どっちかがどっちかの名前にならな
  きゃだめなの」
桃子「え、どういうこと?」
優子「夫が妻の名前になるか、妻が夫の名前になるか。つまり、お
  父さんが竹内さんになるか、お母さんが小田さんになるか、選ば
  ないといけなかったの」
桃子「同じ名前にならなきゃだめなのね」
優子「そう。何でだろうね」
桃子「だって、家族じゃない」
優子「でも、今はもう家族じゃないのよ」
桃子「どういうこと?」
優子「だから、お母さん、竹内さんに戻りたいの」
桃子「そんなの、お母さんと私が同じ家族じゃないみたい」
優子「だから、桃子も竹内さんにならない?」
桃子「どういうこと?」
優子「お母さんは、竹内さんに戻りたいの」
桃子「私も、竹内さんになるの?」
優子「そう」
桃子「そんなの。いやだ」
優子「どうして?」
桃子「だって・・りこんした子だって、すぐ分かっちゃうし、名前
  変えるのって、いろいろとめんどくさいし、それに・・私じゃな
  いみたい」
優子「いやなの?」
桃子「うん」
優子「分かった」
桃子「小田桃子だからね」
優子「分かった」
桃子「戸棚が、がら空きだね」
優子「お父さんが持っていったからね」
桃子「めおと茶わんも?」
優子「そうよ」
桃子「お母さんと私とおそろいの、あのおはしも?」
優子「そうよ」
桃子「長崎で買ったあのマグカップも?」
優子「そうよ。お父さんの物は全部持っていったの」
桃子「何か、ヘンだ」
優子「桃子。これからは、二人の生活だから。お茶わんは二つでい
  いんだし、おはしも二組でいいの」
桃子「でも、お父さんのおはしもおそろいだよ」
優子「おそろいでも、これからは別々の生活になるの」
桃子「何で別々の生活になっちゃうのかなー」
優子「桃子」
桃子「ねえ。どこに置いとく?」
優子「台所。いつもよく見える所に置く。お母さんは、毎晩、寝る
  前に書くから、桃子は、帰ってきたら書いてね」
桃子「りょうかい」
優子「じゃ、今日の分、見せてね」
桃子「待って!」
優子「何?」
桃子「私のいない所で見て!」
    
    桃子、部屋から駆け出していく。
    優子、いすに座ってノートを開く。
    
優子「九月二十三日、晴れ。今日、学校で先生とお話ししたよ。先
  生が、小田さん、がんばってねなんて言うから、泣きそうになっ
  ちゃった。まだ友達には言わないつもり。転校する前の週くらい
  に、仲のいい子にはこっそり言おうと思うんだけど。ねえ、お母
  さん。こういうのって、けっこうめんどくさいよね。家具とかも
  さ。いっそ、何もかも置いてっちゃって、新しく買うわけにはい
  かないの? 新しい生活をはじめるんなら、それくらいのかくご
  はしてもいいと、桃子は思います。桃子、女医さんになるのはね、
  お金もうけたいからなんだよ。やりがいがあって、お金ももうけ
  られるから、いい商売だと思う。そうしたら、お母さんをせんぎ
  ょう主婦のままでいさせてあげられるし。私は、せんぎょう子ど
  もなので、早くおとなになって、はたらきたいです。いっぱい書
  いたから、つかれちゃった。今日は一日目だから、がんばって書
  きました。お母さんもがんばって書いてね。親とメル友、ていう
  子はいるけど、こうかん日記してる子はいないから、ちょっとじ
  まんできそうです。今度こそ、本当に終わり。小田桃子」
    
    優子、ノートに書き始める。
    
優子「九月二十三日、晴れ。桃子は、かしこい子だと思います。お
  母さんよりずっとしっかりしてる。だからお母さんは助けられて
  ばっかりいます。今日、お母さんは面接に行きました。スーツを
  着るのも、面接を受けるのも久しぶりで、どきどきしました。お
  母さんぐらいの年になっても、テストって、どきどきするし、い
  やなものよ。お子さんが病気になって、あなたを必要としている
  時に、残業を命じられたらどうしますかって、聞かれました。意
  地悪な質問だったと思う。だって、お母さんにはほかに答えよう
  がないものね。お母さんは、もちろん、子どもをかんびょうしに
  家に帰りますって言ったの。お父さんがいなくても、これからは、
  お母さんが二人分がんばるから、桃子には不便な思いをさせませ
  ん。約束します。来週の日曜日には、アパートを探しに行こうね。
  その後で、パフェを食べに行こうね。あしびの、ケーキパフェ。
  一度挑戦して、ダウンしてしまったけど、今度こそは、全部食べ
  たいと思います。これも、約束ね。お母さんより」
    
    優子、最後の文字を消す。
    
優子「もとい、竹内優子より」
    
                         《おわり》

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(以降の文章は著作権表示なので、印刷する場合もコピーする場合
も、その他いかなる形式における複製においても、削除は禁止しま
す)

この脚本は、日本の著作権法および国際著作権条約によって保護さ
れています。「スタートライン」は山本真紀の著作物であり、その
著作権は作者である山本真紀に帰属するものです。

この脚本を全部あるいは一部を無断で複製したり、無断で複製物を
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次の二点が満たされていることを条件に、認めます。

 一、タイトル(『スタートライン』 作・山本真紀)から最終行
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 二、テキストを一切改変しないこと。

上演を行う際には、事前に必ず作者の許可を得る事が必要です。問
い合わせは、作者の主宰する「劇団空中サーカス」へどうぞ。

 「劇団空中サーカス」公式サイト http://www.k-circus.com/

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期によって変わります。予算の関係で減額してほしい場合は、ご相
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 一、公演初日より三週間以上前に、許可申請がされた場合。
   ・・・二千五百円。

 二、それ以降(事後承諾含む)の場合。
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