◆ オリジナル台本 『少女と名高い盗賊の話』 ◆

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題名 少女と名高い盗賊の話
作者 山本真紀
キャスト 2人
上演時間 20分
あらすじ 連作短編集『キャラバン』より。1999年版では第五話、2004年版では第三話にあたります。
人生の時々に現れる謎の盗賊の正体は? 紙飛行機のとびかうファンタジックな作品です。

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注意事項



少女と名高い盗賊の話



○登場人物

    少女
    少年


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   『少女と名高い盗賊の話』 作・山本真紀

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     老婆が静かに眠っている。
     少女がやって来て、老婆に話しかける。

少女「雨がやんだみたい」

     少女、部屋の中を動き回る。特に何をするでもない。

少女「今日は、お客も来ないと思うわ。来なきゃ来ないで、一日たっ
   ぷり日だまりばかり見て暮らすんだから」

少女「船。港。錨。カモメ。樽。釣り糸。嵐。宝石。潮の、匂い……。
   そんなものがあるのかしら……」

少女「船の甲板の上で、釣り上げた魚をさばくんだって。魚のはら
   わたを投げてやると、カモメが空中でそれを受け止める。魚
   は、だから何にも残らないんだって。骨までなくなっちゃう。
   『そんなことも知らないのか』って言うのよ。自分だって、
   子どもの頃は私みたいに、砂漠の街で暮らしてたくせに。だ
   からいばりたいのよ。
   昔から、大風呂敷を広げる人だったって? でしょうね。海
   賊に襲われた話、したでしょ? 向こうが大砲を撃ってきた
   んで、大砲めがけて飛び移ったら、ちょうど筒の上に着地し
   た。そんなわけないでしょ? それで、海賊の親分を一撃で
   殴り倒して、『野郎ども! 親分の命が惜しけりゃ、武器を
   捨てろ!』決まり過ぎよ」

少女「叔父さんって、変な人。自分の話ばかりして、こっちの話は
   聞いてないんだもの。話を聞かないのは、血筋なのかしらね」

     少女、紙飛行機を作る。飛行機を飛ばして、行ってしま
     う。

     少年が出て来て、その飛行機を受け止める。
     飛行機に結びつけられた手紙を読む。

少年「『今日は昨日と同じ一日だった』」

     少年、飛行機を持ってすわりこむ。
     少年、飛行機を作り始める。

少女「今日はお水、飲めたね」

     少女、再び現れる。

少女「指、鳥のつめみたい。この指が町一番の紡ぎ手だったのかな?
   『あたしの糸は、一番細くて一番丈夫な糸だった』って、言っ
   てたもんね。糸紡ぎがあんまりうまくない女たちに分けてやっ
   て、ありがたがられたもんだって?
   大風呂敷も、血筋じゃなきゃいいけど。……だって、私、全
   然うまくならない。一番太くて、一番不細工な糸が私の糸」

少女「今日も、お客は来ないみたい。来なきゃ来ないで、誰の声も
   聞かずに一日たっぷり日だまりを見て暮らすのよ」

     少女、日だまりを見つめる。貧乏揺すりをしてみる。

少女「今日も昨日と同じ一日だった」

     少年、飛行機を飛ばす。
     少女、飛行機を受け止める。

少女「どんな夢を見ているのかしら……? きっと、楽しい夢でしょ
   うね。おばあちゃんの話はいつだって奇想天外だもの。信じ
   られないって思っても、ついつい引き込まれちゃうのよ。夢
   の中で一人で楽しむなんて、ずるいわ」

     少女、飛行機を飛ばす。
     少年、飛行機を受け止める。
     少年、客席に向かって、別の飛行機を飛ばす。

少年「王様のキャラバンが通った日のことを覚えている。朝早かっ
   たから、街の人はみんなまだ眠っていた。変な感じだった。
   ラクダがいっぱい、車も何台も何台も通るのに、物音一つし
   ない。みんな、ラクダ引きの人足まで、華やかな服を着てい
   た。あんな布が欲しい、きれっぱしでもいいから、さわって
   みたいと思って、じっと見ていたら、先頭の人が笑って、頭
   に手を載せてくれた。そばに寄ったら、不思議な匂いがした。
   そのままキャラバンは、物音一つ立てずに行ってしまった。
   あとで友達に話したら『うそだ!』と言われたけど、でも本
   当に見たんだ。あれはきっと王様のキャラバンだったんだ。
   ……この話、聞いたことがあるだろう?」

少女「何となく」

少年「知ってるだろう?」

少女「そう、おばあちゃんが話してたんだ」

少年「もう一度聞かせて」

少女「王様のキャラバンが、通った日のこと? 朝早く、静かなキャ
   ラバンが通っていったの」

少年「それだけ?」

少女「ちょっと違う」

少年「全然違うね」

少女「ほかにも、いっぱい話してた。でも、同じようには話せない」

少年「覚えてないの?」

少女「覚えてるけど……。ねえ、もう一度話して」

少年「だめだよ」

少女「だめ?」

少年「ほかの話は?」

少女「いっぱい、あるのよ。井戸端で、向かいの散髪屋のじいさん
   にプロポーズされた話とか、それから、髪の毛を染める粉を
   行商人から買って失敗した話とか。でも、話せない」

少年「どうして?」

少女「おばあちゃんじゃなきゃ、だめなの」

少年「ほかの話は?」

少女「思い出せない。おばあちゃんが目を覚まさなきゃ、聞けない。
   私の物語じゃないもの」

少年「君の話は?」

少女「そんなもの、ない」

少年「何か、話して」

少女「私には、何もないもの」

少年「今日も、昨日と同じ一日だった」

少女「明日も、今日と同じ一日なの。その次もそうよ。ずっと、そ
   うなの」

     二人、紙飛行機を投げ合う。だんだん、紙飛行機が舞台
     上に積もっていく。

少年「これはどう? 『一日、日だまりばかり見て暮らしている』」

少女「そんなこと、書いた覚えはないわ」

少年「じゃあ、『今日も訪ねて来る人はいない。誰とも口を利かず
   に、日が暮れる。毎日それの繰り返しだ』」

少女「私じゃない」

少年「『誰か、ここから救い出してください』」

少女「(笑い出して)お金持ちなら言うことなし」

少年「お金なんて持っていなくてもいい。誰だって、救い出してく
   れる人なら。そう思い続けていた。何もする気力もなくなっ
   て、ただ、祈るだけの毎日だった。僕を護送するキャラバン
   は、やがて街に着いた。すでに夜が明けかかっていた」

少女「あのキャラバンね」

少年「王のキャラバンだったんだよ」

少女「あなたが、王?」

少年「そうだ。僕は、輿の上から子どもたちを見ていた。君はまだ、
   小さな女の子だった」

少女「知らなかったわ」

少年「あの頃、僕は、テントの壁の布目ばかり見て暮らしていた。
   真昼の光も、夕空にかすむ砂漠も知らなかった」

少女「閉じ込められてたの?」

少年「僕は、頭のおかしい王だったから」

少女「そんなふうには見えないわ。今は、何をしてるの?」

少年「盗賊だよ。君は、何をしているの?」

少女「今日、結婚したところよ」

少年「すまない。君が花嫁だって知っていたら、この家には入らな
   かったんだけど」

少女「何を取りに来たの?」

少年「君の心を」

少女「おあいにくさま、ほかの物は取れてもそれだけは取れないわ」

少年「仕方がないね。奥さん、さようなら」

少女「さようなら。つかまらないようにね」

     少年(盗賊)、去る。

     少女、飛行機を作り始める。

少女「外を歩けないなんて、つまらない。本当に、壁の布目を数え
   て暮らすなんて、息がつまりそう。誰か、ここから救い出し
   てください」

     飛行機を飛ばす。

少年「言わんこっちゃない。(飛行機を受け止める)」

少女「あなたがいいとかじゃないのよ。単に、外に出たいだけ! 
   お願いだから、外に出して」

少年「それをわがままと言うんだ。君は大人の女だろう」

少女「つべこべ言わずに、連れ出して。ちょっとだけでいいから」

少年「僕は、値打ちのあるものか盗まないんだ」

少女「私の値打ちが分からないなんて、それでよく盗賊をやってら
   れるわね」

少年「君の値打ちは分かるよ。僕が連れて歩くに越したことはない、
   その程度の女だ」

少女「連れて歩かなくたっていいわ。私は一人で歩くもの」

少年「じゃあ、一人で出て行けよ」

少女「出られない」

少年「仕方がないね。さようなら」

少女「さようなら。あなたは、つかまらないでね」

少年「僕はつかまらないよ。盗賊だから」

     少年、去る。

     少女、飛行機を飛ばす。何個も飛ばす。
     少年が現れて、飛行機を投げつける。少女、受け止める。

少年「まだここにいるの、奥さん」

少女「いるわよ。あなたこそ、元気なの」

少年「元気だよ」

少女「つかまってない?」

少年「一度や二度はね。でも、ここにいるのが証拠だろ?」

少女「顔を見せて。まあ、ふけたのね」

少年「お互い様だ。君こそ、だんな以外の男に顔を見せて、よく平
   気だね」

少女「この年になったら平気よ」

少年「ほかにも奥さんがいるんだろう?」

少女「ええそう、仲良しよ。年に一度くらい会うわ。向こうの方が
   若いの」

少年「すっかり落ち着いてしまったんだね」

少女「そうでもないわ。子どもがいるの、見た?」

少年「あれは君の子どもか」

少女「そうよ」

少年「似てないね、全然。君の子どものころはもっとかわいかった」

少女「うそよ」

少年「覚えてるよ」

少女「いつのこと?」

少年「キャラバンで旅していて、ある街に立ち寄った時のことだ。
   君はまだ幼い女の子だった」

少女「そんなこと、あったかしら」

少年「あったよ」

少女「あなたは、ただの盗賊よ。何年かに一度、ふらっと人の寝室
   に現れるなんて、失礼な人だわ」

少年「君が一番古い知り合いなんだよ」

少女「そういうの、いやだわ。もう帰って」

少年「帰るよ。もう、来ないからな」

少女「構わないわ」

     少年、去る。

     少女、飛行機を作っては飛ばし続ける。

少女「別に、かまわないのよ。誰も来なくっても。子どももいるし、
   だんなもいるし、それにもうすぐ孫もできるしね」

     少年が遠くから、飛行機を投げつける。

少年「そんなに意固地になると、早く年をとるぞ」

少女「ナンセンスね」

少年「本当に、もう来ないからな」

少女「そう。残念だわ。いいお友達だったのに。さようなら」

少年「さようなら」

     少年、去る。
     少女が残って、飛行機を作っては飛ばし続ける。

     少年は、戻って来ない。

少女「だんながいない生活は、四十年ぶり。せいせいするわ。私だっ
   て、まだまだ捨てたもんじゃないわよ。
   今日は何があったと思う? 井戸の所に、水を汲みに行った
   のよ。そしたら、女連中は誰もいなくてね。散髪屋のじいさ
   んが一人、水を汲んでたのよ。じいさんの後ろで順番を待っ
   てたら、急にじいさんが振り向いて、私の顔をまじまじ見る
   の。失礼な奴だって思ったら、じいさん、猫なで声で『今日、
   お宅へ伺ってもよろしいですかねえ?』って言うのよ。びっ
   くりして黙ってたら、じいさん、ぼそぼそ身の上話を始める
   わけ。五年くらい前に、奥さんに死なれたんですって。
   それが、何かって? 縁談よ、縁談。決まってるじゃないの。
   え、年寄りにも年寄りなりの縁談があるわよ。そりゃあ、散
   髪屋のじいさんじゃ、うれしくないけどさ。
   断るわよ、もちろん。私には、おまえがいるからね。お嫁に
   出すまで、がんばらないと。だから、早くお嫁に行っておく
   れ」

     飛行機が、飛んでくる。少女、気づかない。

少女「一人の男に操を立てるなんて、今時はやらないけど、いつの
   間にかそうなっちゃったんだから、仕方ないね。仕方がない
   ね、さようなら……あら、だれの口癖だったかしら。私のじゃ
   ない」

     再び、紙飛行機。やはり少女は気づかない。

少女「さようならなんて、縁起でもない。私はまだまだ、元気でい
   るわ。おまえがいるからね」

     飛行機が飛んでくる。

少女「明日は、おまえが水汲みに行っておくれ」

     少年、やって来る。

少年「僕が分かる?」

少女「(不思議そうにしている)」

少年「君の一番古い友達だ」

少女「……?」

少年「覚えていないんだね。いいよ、僕が覚えているから」


                         (おわり)


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も、その他いかなる形式における複製においても、削除は禁止しま
す)

この脚本は、日本の著作権法および国際著作権条約によって保護さ
れています。「少女と名高い盗賊の話」は山本真紀の著作物であり、
その著作権は作者である山本真紀にのみ帰属するものです。

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 一、タイトル(『少女と名高い盗賊の話』 作・山本真紀)から
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い合わせは、作者の主宰する「劇団空中サーカス」へどうぞ。

 「劇団空中サーカス」公式サイト http://www.k-circus.com/

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