◆ オリジナル台本 『蟻志倭人伝』 ◆

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題名 蟻志倭人伝
作者 山本真紀
キャスト 8人
上演時間 80分
あらすじ 滅亡の危機に瀕したアリの王国では、新しい女王の誕生が待ち望まれていた。 国民たちがこぞって見守る中、戴冠式に登場した女王は何とふたごだった。一体どちらが王位に就くのか?

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注意事項



蟻志倭人伝



○登場人物

    シジン
    ボウシヤ
    ハカセ
    宰相
    女王1(ジョオウ)
    女王2(ナキムシ)
    侍女1
    侍女2



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   『蟻志倭人伝』 作・山本真紀

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<1>顔見せ
    
    侍女たちが、ならんでいる。何やら、ものものしい。
    宰相がその前を歩き回っている。
    ハカセ(侍女)がやってきた。
    
ハカセ「閣下」
宰相「何だ、おどかすなよ」
ハカセ「お早いお越しで」
宰相「けさは朝から落ち着かない」
ハカセ「無理もありません。なにしろ初めてのご対面」
宰相「緊張で腰が震えてしまうよ。ハカセ。おまえはお会いしてい
  るんだろう。もったいぶらずに言いなさい。我等の、新しい王と
  なられるヒメは、いったいどのようなかたなんだ」
ハカセ「知りたい?」
宰相「そりゃもちろん」
ハカセ「それは。恐れ多くもかしこくも。ウクライナの波打つ麦畑
  の下に隠された肥沃な農土のように黒黒と、まあ見事な玉のお肌。
  おつむりは大きくて、たたびとならぬ英知を感じさせまする。細
  々と、影さえ落とさぬたおやかなお腰と、そこからふくらむ巨大
  な、巨大な、巨大なボトム!」
宰相「美しい」
ハカセ「その通り」
宰相「文字通りこの国の母となるにふさわしい」
ハカセ「もちろんよ」
宰相「このような見事な君主をいただけるとは、この上なき栄誉」
ハカセ「あら、まだ見てないくせに」
宰相「分かるんだよ。幸せだなあ、おれたち」
ハカセ「楽天家なのね」
宰相「それが私のよいところ」
ハカセ「あまりちゃらちゃらしないでね。仮にも、この国の宰相と
  呼ばれるお方なんですから」
宰相「全く笑える」
    
    ふたりの少年が入ってくる。
    
ボウシヤ「これはこれは、お揃いで」
ハカセ「どうお揃いだって言うのよ」
ボウシヤ「遅れて申し訳ない」
宰相「そちらは見かけない顔だな。近衛隊に新しくはいったという
  シジンかな」
ボウシヤ「よく知ってますね」
ハカセ「詩人ですって。詩をつくってるの」
シジン「はい、いやちがいます。シジンは呼び名です」
ハカセ「そう呼ばれてるってことは、詩も作れるんでしょう」
ボウシヤ「今日は、めでたいヒメの成人の儀。若い女王のために、
  その美しさをたたえるうたなど作らせてはどうかと思い、連れて
  来ました」
宰相「よい考えだ。ヒメも喜ばれるだろう」
シジン「私の詩が、お気に召すかどうか」
ハカセ「気に入るわよ。あなたが、詩を作れたらのことだけど」
シジン「お任せください」
ハカセ「さっきとは違って、ずいぶんな自信ね。ヒメの姿を見て、
  腰を抜かすんじゃないわよ」
ボウシヤ「女王が大きいことは、知っている。まだ見たことはない
  が」
ハカセ「だから、今からお目にかかるんじゃないの。私が言ったの
  は別の意味でよ」
    
    シジンは、ボウシヤにささやきかける。
    
シジン「あれが、有名なハカセか」
ボウシヤ「あんまり口が立つんで、そう呼ばれている」
シジン「聡明なひとだ」
ボウシヤ「惚れちゃったか?」
シジン「まさか。いや、でも、すてきだな」
ボウシヤ「やめとけ。顔だけ見てるぶんにはかわいいが、腹の中は
  まっくろけ、いつもこせこせ陰謀を練ってるいやなやつだ」
シジン「それは君のことだろう」
ボウシヤ「その通り。似ているからいやになる」
シジン「え?」
侍女1「みなさまがた、お静まりください。ヒメが、おでましにな
  ります」
    
    一同、威儀をただした。
    
ボウシヤ「いよいよ拝見できるってわけだ。その、ビッグ・ボトム
  ってやつを」
ハカセ「聞いてたのね」
ボウシヤ「とんでもない。でかいけつは、女王をほめたたえる時に
  使われる、常套句だろう」
宰相「口のききかたに気を付けろ」
ボウシヤ「気を付けるよ。女王の前ではね」
    
    ファンファーレとともに、ヒメの姿があらわれる。
    
シジン「あっ!」
    
    うわさどおりのヒメ。
    うつくしいふたごである。
    
宰相「女王が、ふたり。どういうことだ」
ハカセ「(平然と)ごきょうだいの仲は、非常によろしいようで。
  ヒメ、ご挨拶なさい。
女王1「女王です、はじめまして」
女王2「女王その2、ナキムシです。名前の由来は、気が弱くて、
  あがるとすぐ泣いちゃうの。(泣き出す)」
女王1「ハカセが悪い。まだ私たち、準備ができてないのに」
ハカセ「一刻も早く、つとめを果たしていただかねばなりませぬ故」
宰相「ハカセ」
ハカセ「何です」
宰相「これはなんだ」
ハカセ「女王です」
宰相「わかっている。聞きたいのは、何で、女王がふたりもいるの
  かということだ」
ハカセ「手違いです」
宰相「優秀な育児係のおまえが、どうしてこのような失態をおかし
  たのか」
ハカセ「私が、うんだわけではありません。大切に、お育て申しあ
  げただけです」
宰相「そうだろうとも。前代未聞だ。ひとつの巣にふたりの女王」
ハカセ「なぜいけないのです?」
宰相「争いが起きる。将来、必ずや、姉妹で争われる時がくるぞ。
  たとえば、女王が生涯でただ一度、そのはねをつかって飛ぶ時─
  ─交尾の時期だ。男を取り合って、たがいに殺し合うはめになる
  んだ」
ハカセ「すべては、偉大なる前女王陛下のご意志です」
宰相「わかった。いやな仕事だが、やらねばなるまい」
ハカセ「何をするんです!」
宰相「この国に女王はふたりもいらぬ。覚悟なされよ」
ボウシヤ「駄目だ、やめろ」
宰相「今のうちに後顧の憂いを絶っておかねばならないんだ。それ
  がわからないおまえでもあるまい。どけ」
    
    宰相、ナキムシに斬りかかる。
    侍女の悲鳴。
    
ナキムシ「こわいじゃない。何するのよ。(泣きながら、宰相の首
  をつかんでいる)」
ジョオウ「無礼な奴ね。殺してしまいなさい」
ナキムシ「うん」
    
    宰相、殺される。
    侍女が足をつかんで運び出す。
    
シジン「なんてこった。ここでは、こんなに簡単にひとが殺される
  のか」
ハカセ「陛下、ご無事でなによりでした」
ジョオウ「気にいらない」
ボウシヤ「もうしわけございません。すべて、私の責任です」
ジョオウ「おまえは誰?」
ボウシヤ「近衛隊長をつとめております。ボウシヤと申す者でござ
  います。このたびの不祥事は、宰相にあのような悪心があったこ
  とを悟れなかった私の責任。よって、ここに、厳罰に処していた
  だけますよう、お願いもうしあげる次第」
ジョオウ「厳罰に? それでは、おまえを殺さないといけない」
ボウシヤ「それがお望みとあらば」
ジョオウ「さて、どうするか」
ナキムシ「どうしよう」
ジョオウ「気にいった。殺すのはもったいないわ」
ナキムシ「ねえさんがそう言うのなら。私はどちらでもいいの。よ
  かったわね」
ボウシヤ「ありがとうございます。たった今救われたこの命。以後
  は両陛下のために使わせていただく覚悟です」
ジョオウ「好きにしなさい」
ボウシヤ「身にあまる光栄」
ナキムシ「よくまわるお口。おまえの本当の願いは何なの?」
ボウシヤ「もちろん、両陛下によくお仕えすることです」
ナキムシ「なるほどね」
ジョオウ「おまえを宰相に任じます」
ボウシヤ「は」
ジョオウ「疲れたわ。ハカセ、もう眠ってもいい?」
ハカセ「よろしいですよ」
    
    一同、平伏。
    ふたりの女王は、去っていった。
    
ハカセ「ご苦労さまでした。追って、正式な通知が下されると思い
  ます」
ボウシヤ「あっさりしてるな」
ハカセ「女王は、われらすべての民人の母です。母を傷付ける行為
  は許されません」
ボウシヤ「ひとつききたい」
ハカセ「ひとつなら」
ボウシヤ「何故、女王がふたりなんだ?」
ハカセ「さっき、言ったわ。なき女王のご意志だろうと」
ボウシヤ「さきの女王は年をとりすぎていて、いろいろ不調があっ
  た」
ハカセ「そのせいだと? いくら宰相といえとも、不敬はいけませ
  んよ。シジン、あなたの詩がきけなくて残念ね。名前のとおりの
  ものなのか、確かめてあげたかったんだけど。では、おいとまし
  ます」
    
    侍女たち、さがる。
    シジンとボウシヤだけになった。
    
ボウシヤ「びっくりして、口がきけないのか?」
シジン「宰相は、死んだのか」
ボウシヤ「ああ、たぶん」
シジン「なぜ殺したんだ」
ボウシヤ「ハカセが言っただろう。あのふたごは、われわれの母な
  る存在なんだってさ。おい、しっかりしろ。おまえはガキじゃな
  いだろう。おととい成人して、そのことばをあやつる才能から、
  シジンという名をもらった。おとなとしての名だ」
シジン「さっきから、ぼくのことばはこわばったままだ」
ボウシヤ「ぼくはおまえを買っているよ。誠実で、ふたごころのな
  いおまえのことばは、真実おまえの中から滑りでたことばだ」
シジン「あのハカセとはちがう?」
ボウシヤ「そのとおり。思い通りにいきすぎたな」
シジン「地位がほしいんだね」
ボウシヤ「そうだな。いや、違う。ぼくは勝って気ままに生きたい
  んだ。地位を得れば、みなそれなりの敬意をはらう。ぼくのやり
  方も、尊重してくれるというわけだ」
シジン「ぼくは地位などほしくない」
ボウシヤ「そうだろうな。ひとに頭をさげたことのない奴にはわか
  らない望みだ。そうだ、女王に御目見えしたのに名乗るひまもな
  かったな。まあ、また機会はあるだろう」
シジン「つまらない詩を披露する機会?」
ボウシヤ「ハカセも詩人だよ」
シジン「そうだったのか。でも、彼女の才能は詩作だけじゃないだ
  ろう」
ボウシヤ「りっぱな政治家だ」
シジン「女王たちの教育係も兼ねている」
ボウシヤ「こわいはなしだ。あいつに、まともな子育てができると
  は思わないからだ」
    
    ふたり、去る。
    
侍女1「女王さまがふたり。お世話するほうも大変だ。あれが、最
  後の女王にならなきゃいいけどね。ま、私の知ったこっちゃない
  けど。さて、お仕事、お仕事」
    
    侍女1、去る。


<2>シジンの一日
    
    女王様のお勉強の時間である。
    シジンが教授をつとめる。
    
シジン「そもそも、わが国は、あの翅を持つ勤勉な種族とは縁戚関
  係にあたります。かの種族は空へ、われらは地上へと、住む場所
  こそ別れてしまいましたが、民人の母である女王を擁し、その女
  王を頂点とした階級制度をとりいれている点など、非常に共通す
  る部分も多いわけです。……陛下」
ナキムシ「ん」
シジン「おそれながら、もう少し真剣にお聞きください」
ナキムシ「だって、眠いんだもん」
シジン「お昼寝の時間はとってあるでしょう」
ナキムシ「成長期は、睡眠をとらなきゃいけないのよ。じゃないと、
  脳みそが腐ってばかな子になるって聞いた」
シジン「それは子供の時のはなしですよ。さあ、いい子になさって
  ください」
ナキムシ「いや。もう少し、簡単な話はないの?」
シジン「申し訳ありません」
ジョオウ「私、寝てた?」
ナキムシ「目はあいてたわ」
ジョオウ「じゃあ、起きてたのね。シジン、何ぼやっとしているの。
  講義を続けなさい。おまえの話は非常に興味深いわ」
シジン「ほら、姉上のほうはちゃんとお聞きになってます」
ナキムシ「じゃあ、私から質問するわ。それに答えてね」
シジン「承知しました」
ナキムシ「おまえたちは何故、私とねえさんを女王とよぶの」
シジン「よくぞ、よくぞお聞きくださいました。今まで長々と申し
  上げたことは、すべてその問題に収束されるのです。まず、ご自
  分のからだをごらんください」
ナキムシ「わっ。わわっ。ひょっとして私、デブ? ブス? 知ら
  なかった」
ジョオウ「むねがでかい」
ナキムシ「おなかも大きい」
ジョオウ「私たちだけ、変なのね」
シジン「陛下、その美しきおすがたを、恥じらいたもうな。──こ
  はまとこに神のわざ。われらはおののく、造詣の美の精妙に。い
  かにして君を愛さざらんや。/君は歩む。その巨大にして豪奢な
  尻をふりつつ。/われらは夢見る。青葉のうえに金剛の雨注ぐ、
  灼熱の季節に君が舞う」
ナキムシ「すごい、すごい、シジンて、詩人だったのね」
シジン「そう呼ばれています。陛下のおすがたは、母親になられる
  尊いご身分である、あかしなのです」
ジョオウ「母親。わたしは母を覚えてないわ」
シジン「陛下は、さきの女王の最後の子どもです。覚えてなくて、
  当然ですよ」
ジョオウ「でも、おかあさん。おかあさんという言葉には、不思議
  な力がある。唇に、そっとのせると切なくて、叫びだしたいのに
  声が出ない、去っていくひとを見つめながら立ちつくしているよ
  うな、そんな不幸な気分になる」
ナキムシ「覚えてるんだ」
ジョオウ「それが、全然」
ナキムシ「私も」
ジョオウ「私、はやく母親の気分を味わってみたいわ。そしたら、
  私たちのほんとうのおかあさんに出会えるような気がするの」
ナキムシ「おかあさんになるってことは、子供を生むのよ」
ジョオウ「分かってる」
ナキムシ「私たちのおなかから、子供たちがオイチニ、オイチニ、
  『はあい早く進んでえ』だあっと行列作って出てきやがるのよ」
ジョオウ「すごいわね」
ナキムシ「気味悪いわ」
ジョオウ「ねえシジン。知ってることでいいから、おかあさんのこ
  とを教えて」
シジン「亡き女王陛下は、それは偉大なかたでした」
ナキムシ「うん」
シジン「常に国民のことを考え、慈愛にみちたそのかんばせは、今
  なお民のあいだで語り継がれています」
ナキムシ「それで?」
シジン「特に、さきの戦争にあたって示された勇気、決断力、どれ
  をとっても我が国が誇るべき君主であられた」
ナキムシ「また眠いお話になってる。シジン、おまえは話がへたね。
  それでよく詩人と言えるもんだわ」
ジョオウ「でも、さっきはすてきな詩をきかせてくれたわ」
ナキムシ「自分が見たことしか喋れないんじゃ、詩人の資格ないわ」
ジョオウ「きっと努力がたりないのよ」
ナキムシ「気にいらない」
ジョオウ「殺しちゃだめ。シジンは好きなの。おいといてくれる?」
ナキムシ「ねえさんがそう言うのなら」
ジョオウ「ありがとう。あら、なんだかぐるぐるする。変ね、立っ
  ていられないみたい」
シジン「陛下?」
ジョオウ「……」
ナキムシ「眠ってる」
シジン「疲れたんでしょう。忘れていました。まだ、あなたがたは
  幼いんですね。利発でいらっしゃるから、つい」
ナキムシ「おまえだって、最後に生まれたグループでしょう」
シジン「ええ。だから、先代の陛下については、覚えていません」
ナキムシ「おまえと私は近しいきょうだいになるのね」
シジン「恐れ多い。陛下は、特別な存在です。私どもとは、わけが
  違います」
ナキムシ「ふん、……そうなの? つまらない」
    
    ナキムシ、唐突に去ってしまう。
    侍女2が来て、ジョオウを起こす。
    
侍女2「陛下」
ジョオウ「うーん。私、また眠ってた? ごめんなさい。まだ調子
  が悪いみたい」
侍女2「あちらでお休みなさいませ」
ジョオウ「そうする」
    
    ジョオウ、侍女に助けられて去る。
    ハカセがやってきた。
    
シジン「休憩時間なんです」
ハカセ「そのようね。陛下は、意外にあなたを気にいっていらっし
  ゃるわ」
シジン「いや、それは、光栄です」
ハカセ「陛下のお勉強は、どの程度進んでる?」
シジン「今回は、王国のなりたちを説明するつもりでしたが、その
  方面には興味を持たれないようで」
ハカセ「欠くべからざる教養ね」
シジン「すみません」
ハカセ「まあ、それよりも、さしせまったお役目のほうが大事だわ。
  早く果たしていただかねば」
シジン「ハカセ。あのう」
ハカセ「なあに、仕事上の話は簡潔に、要領よくまとめてね。もち
  ろん相手の都合をうかがいつつ切り出すことがポイントよ。まあ
  私はOKだけど」
シジン「すみません。あの、実は、陛下のお勉強を、もうすこしゆ
  っくり進めてはいけませんか? 彼女たちは、あまりに幼い。今
  すぐ、おとなとしてのつとめを要求するなんて、無茶だと思うん
  です」
ハカセ「今更なにを言い出すの、シジン。国民の悲願ということを
  忘れたの?」
シジン「忘れちゃいません、でもあんな。気付いているでしょう、
  陛下はおつむに比べて、
    身体の成長が遅すぎる」
ハカセ「承知ですよ。普通より三日も早く、成人させたのだから」
シジン「三日?」
ハカセ「遅すぎるくらいよ」
シジン「あなたは養育プログラムに介入したのか?」
ハカセ「さきの宰相の命令で。私が責任者だったわ」
シジン「なんてことを」
ハカセ「冒涜だと? お互い、言葉に魂をもつ者同士、あいまいな
  会話はやめましょう。あなたの言う通り、女王は未熟児です。本
  来なら、まだ生まれぬさきのすこやかな眠りについている年齢。
  それを。わたしたちが手を加えて、はやく目覚めさせたのよ。知
  ってるでしょう、この国の人口がどんどん減っているのを。もと
  もと少ないうえに、あの白き者どもとの戦争で、働き盛りの年代
  は絶えてしまった。私や、あなたのような若輩者が国の重鎮につ
  いているのもそのためよ。私たちは一刻もはやく、国の繁栄を取
  りもどさなければならない。そのためには、新たな国民を生み出
  す女王が必要なのよ。そう習わなかった? シジン」
シジン「聞かされた、幼い頃のおとぎばなしに。あの時は、たんな
  るヒロイズムに酔えたんだ。だが、現実は違う。むじゃきな幼い
  子供たちに責任を押しつけるなんて、ぼくはいやだ」
ハカセ「その気持ち、わからなくもないわ。私もそう思った時期が
  あったから。でもね。私にも、あなたにも、子供は生めないのよ。
  それを覚えていて」
    
    ハカセ、去る。
    
シジン「大義名分は、ぼくだって分かるんだ。でもすっきりしない。
  子供の成長をいじるなんて、許されることじゃない。たとえ国の
  急務であっても。国の。事情はこれほどせっぱつまっているんだ
  ろうか」


(……サンプルにつき、以下略。このバージョンは、劇団空中サー
カス公式サイトで公開するために作成されたものです。続きに興味
がおありの方は、劇団までお問い合わせ下さい)

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(以降の文章は著作権表示なので、印刷する場合もコピーする場合
も、その他いかなる形式における複製においても、削除は禁止しま
す)

この脚本は、日本の著作権法および国際著作権条約によって保護さ
れています。「蟻志倭人伝」は山本真紀の著作物であり、その著作
権は作者である山本真紀にのみ帰属するものです。

この脚本を全部あるいは一部を無断で複製したり、無断で複製物を
配布することは、固く禁じます。例外として、ダウンロードした本
人が所属するサークルあるいは劇団内で閲覧するための複製のみ、
次の二点が満たされていることを条件に、認めます。

 一、タイトル(『蟻志倭人伝』 作・山本真紀)から最終行の英
   文コピーライト表示までが全て含まれていること。
 二、テキストを一切改変しないこと。

その他の問い合わせは、作者の主宰する「劇団空中サーカス」へど
うぞ。

 「劇団空中サーカス」公式サイト http://www.k-circus.com/


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