◆ オリジナル台本 『僕と小鳥』 ◆

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題名 僕と小鳥
作者 山本真紀
キャスト 2人
上演時間 20分
あらすじ 連作短編集『キャラバン』より。1999年版の第一話にあたります。
僕(少年)と小鳥の奇妙な会話をえがく、シュールで可愛い短編です。

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注意事項



僕と小鳥



○登場人物

    小鳥(少女)
    僕(少年)

○注:原文にあるハートマークについては(はあと)で表記してい
 ます。


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   『僕と小鳥』 作・山本真紀

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      眠っていた小鳥が目を覚ます。

小鳥 「何これ。何これ」

      小鳥の足に、鎖がついている。

小鳥 「重い……。何で、こんなものが、ついてるのよ。歩けない
    ……。ちょっと! 何なのよ、これ! う〜ん。う〜ん。
     うーん」(うなりつづける)

      モーニングセットを持った少年(僕)が入って来る。

僕  「鳴いてる、鳴いてる。あんまりいい声じゃないけど、いい
    や。君、いくつ?」
小鳥 「?」
僕  「まだ子供だろ?」
小鳥 「十六よ!」
僕  「アタマの毛がはえそろってないとこを見ると、ひよっこだ
    な」
小鳥 「気安くさわんないでよ!」
僕  「いたっ」
小鳥 「誰なの?」
僕  「僕のこと、こわがらなくていいからね」
小鳥 「あんた、何者よ!」
僕  「ぼちぼち、慣れてくれればいいからね」
小鳥 「ねえ、外してよ。なんだか分かんないけど、足についてる
    の」
僕  「僕たち、一緒に暮らすんだよね」
小鳥 「はあ?」
僕  「久しぶりだなあ、部屋に生き物がいる生活。帰ってきたと
    き、部屋がからっぽだとむなしいんだ。ほら、ドラマでも、
    一人暮しの男が、明かりのついていない自分のアパートの
    部屋を見上げて、ため息ついたりするだろ。鍵を開けた瞬
    間、部屋がひんやりしてるのが分かるっていうか……だか
    ら、僕が帰って来た時、小鳥ちゃんが「おかえり」ってさ
    えずってくれたら、ほんとうれしいな」
小鳥 「誰のこと?」
僕  「何か、食べる?」
小鳥 「え?」
僕  「おなか、すいてるんじゃないの?」
小鳥 「う〜ん、ちょっと」
僕  「ケーキ、はぜいたくか」
小鳥 「ううん、好き。ケーキ大好き」
僕  「やっぱり、ミミズとかアオムシとか」
小鳥 「いやっ。そんなの、絶対いやっ」
僕  「いや?」
小鳥 「お客様にそんなもの出す人が、どこの世界にいるのよ!」
僕  「じゃあ、トースト」
小鳥 「ジャムつけてほしいんだけど」

      僕、食べかけのトーストを差し出す。
      小鳥、いやそうに食べる。

小鳥 「ラーメンにしとけばよかった……」
僕  「世の中には、小鳥をよく拾うタイプの人がいる。僕は、そ
    ういうタイプの人なんだ」
小鳥 「……?」
僕  「誤解があるといけないから、先に説明しておく。君が使っ
    ているアクセサリーや布団は、前の彼女のものだった」
小鳥 「アクセサリー……?」

      足についている鎖を引っ張る。

僕  「前の小鳥ちゃんは、ある晴れた春の日に、どっかに散歩に
    行ったきり、戻って来なかった。カラスにやられてなきゃ、
    いいけど。まだ、彼女が戻って来るんじゃないかって気が
    するんだ。だから、捨てられずに置いてた」
小鳥 「ふられたのね」
僕  「思い切りが悪いのかな……」
小鳥 「前の女が使ってた布団……」
僕  「そう思いながら君を迎え入れてしまったのについては、ま
    あ、少し、後ろめたい気もするんだけど……許してくれる
    よね」
小鳥 「誰が」
僕  「気にしないで」
小鳥 「……」
僕  「ごめんな。無神経だった? 小鳥ちゃんの前で前の小鳥ちゃ
    んの話するなんて、ひとみちゃんの前で、前の恋人の話す
    るようなもんだよな。ま、前に恋人いたって訳じゃないん
    だけど……。あ、ごめん。ひとみちゃんの話も不愉快? 
    聞かない方がいいだろ、こんな話」
小鳥 「聞いてないわよ、あんたが勝手にしてるのよ」
僕  「ひとみちゃんってね、僕の、こ・い・び・と(はあと)」
小鳥 「あ、そう」
僕  「日曜日には会えるよ。デートの約束はしないけど、毎週日
    曜日にはここに来て、僕のシャツにアイロンをかけてくれ
    るんだ。ひとみちゃんは、アイロンかけが上手なんだ。楽
    しみだろ?」
小鳥 「いや、楽しみだろって言われても……」
僕  「ひとみちゃんと出会ったのは、もう一年も前……その頃、
    僕はもっと内気で、地味で、引っ込み思案な性格だった。
    誰も、僕を好きになってくれないだろうし、僕の方も、別
    に他人なんかどうでもいいって感じで、結構クールだった
    んだよね」
小鳥 「だから、さわんないでってば」
僕  「気が強いなあ。気が強いのって、好きだよ」

      僕、笑う。
      小鳥も、しかたなく笑う。

僕  「なまいきなのも好き。わがままなのも好き。手がかかるの
    も好き。僕、わりと寛大だから。何か飲む?」
小鳥 「紅茶。ミルクティー」
僕  「煮沸してるから、飲んでもいいよ」

      僕、水を渡す。

小鳥 「あんた、変よ」
僕  「うん?」
小鳥 「さっきか変だと思ってたけど、あんた、私の話聞いてる?」
僕  「なあに」
小鳥 「私の話、全然聞いてないでしょ」
僕  「うふ(はあと)」
小鳥 「これつけたの、あんたでしょ? 何たくらんでるのか知ら
    ないけど、これ取ってよ。それから、自分の話ばっかりし
    て、人の話全然聞かない奴も嫌い!」
僕  「僕の話ばっかりしてた。今度は、小鳥ちゃんが話す?」
小鳥 「話してるじゃない!」
僕  「会話っぽくなってきたね。いい感じ」
小鳥 「……これ取ってよ。聞いてんのかコラア!」
僕  「小鳥ちゃん、そんな声出すもんじゃない」
小鳥 「放してって言ってんのよ、このタコ!」
僕  「分かんないよ、何言ってんのか」
小鳥 「分かんない? こんなに怒ってんのが分かんないっての?」
僕  「喜怒哀楽は分かるよ。でも、それ以上に高度な情緒となる
    と、小鳥ちゃんを理解するのは僕には難しい」
小鳥 「理解してくれなくってもいいから、これ取って!」
僕  「だから、小鳥ちゃんが何言ってるのか、僕には分かんない
    んだ。小鳥ちゃん語が僕には分かんないように、僕の言葉
    も小鳥ちゃんには分かんないだろ?」
小鳥 「分かるわよ。ずうっと分かってるじゃないの」
僕  「最初は、気が合わないものなんだよ、いつだって。ひとみ
    ちゃんなんかは、まれな例なんだよね。最初っから、僕ら
    は相性バッチリで、どんな話をしても意見が一致して、笑
    うポイントも同じなんだ。でも、普通は違うんだ。最初は、
    好きなのに気が合わなくて、だから、お互い一生懸命努力
    する」
小鳥 「あんたのこと好きって、誰が言った?」
僕  「君も努力し、僕も努力すれば、いつかは、気も合うように
    なって、そのうち相性バッチリの理想のカップルになれる
    だろう。つまり、特に気を使わなくても、何も考えなくて
    も、互いが空気のように、気にならないけど、なくてはな
    らない存在として、ピッタリ合ったふたりになれるんだ」
小鳥 「あんたしゃべりすぎ」
僕  「分かってくれた?」
小鳥 「分かんない」
僕  「僕らは、そういうカップルになれるだろうか?」
小鳥 「なれないと思う」
僕  「どこに行くの」
小鳥 「あんたのいないところ」
僕  「僕を捨てて、逃げるのか」
小鳥 「どのツラ下げてそんなセリフが吐けるのよ。鏡でじっくり
    自分のツラ見てから、言うこと考えな」
僕  「怒んないの」
小鳥 「近寄らないでよ」
僕  「何してるの」
小鳥 「外れないの」
僕  「それは、外れないよ」
小鳥 「外してよ」
僕  「外したら、逃げるでしょ? だったら、外さない」
小鳥 「逃げないって約束したら、外してくれる?」
僕  「約束しても、逃げるんだろ?」
小鳥 「逃げない、逃げない」
僕  「本当に?」
小鳥 「ほんと、ほんと」
僕  「ウソつくんじゃないだろうね」
小鳥 「女に二言はない」
僕  「分かった。外そう。でもその前に、仲直りのパーティーを
    しよう」
小鳥 「パーティー?」
僕  「いや?」
小鳥 「ううん」
僕  「いやじゃないなら、何食べさせようかな……練り餌かな」
小鳥 「いやっ」
僕  「キャベツとか、ヒマワリの種とか」
小鳥 「ベジタリアンじゃないの」
僕  「やっぱりトースト」
小鳥 「トースト? またトースト?」

      僕、トーストを小鳥に差し出す。
      小鳥、いやいや受け取って食べる。
      僕も、食べる。

僕  「スズメって、焼き鳥にしたらおいしいんだってねえ……」
小鳥 「あっ。私、焼き鳥好き」
僕  「なんか、うれしそうだな」
小鳥 「こっそりビール飲むのも、好き」
僕  「僕のこと、好き?」
小鳥 「う……う〜ん」
僕  「照れなくていいよ」
小鳥 「そ〜ゆ〜ことは、あんまりハッキリ言わないんじゃないか
    と」
僕  「好き?」
小鳥 「う……まあ、ね」
僕  「僕は、小鳥ちゃんが、だあい好き」
小鳥 「言うなっつーの」
僕  「かわいいんだもん。ぷちぷちしてて。この辺なんか、ほん
    と、食べちゃいたいくらい」
小鳥 「うっ。もうガマンできないっ」
僕  「待って!」
小鳥 「待ってと言われて待てると思う?」
僕  「逃げられないよ。小鳥ちゃんは、僕の小鳥ちゃんだ」
小鳥 「僕のって、私は誰のものでもなくて、私の物よ!」
僕  「そう興奮しないで。怪我するよ」
小鳥 「もういやなの! あっち行って!」
僕  「よく分かんないよ。どうしてそんなに僕のこと、いやがる
    の?」
小鳥 「いやなものはいやなのよ!」
僕  「僕の小鳥ちゃん。あんまり分かんないこと、言わないの」
小鳥 「……」
僕  「僕の小鳥ちゃんは、どこにでも逃げていく権利がある。僕
    のうちで寝る権利もある。どちらを選ぶかは、小鳥ちゃん
    の自由意志に任せる。閉じ込めたり、してないよ」

      僕、小鳥の足かせを外す。

僕  「君は、どこにだって行けるんだ……そう、前の小鳥ちゃん
    のようにね……。僕の誠意を分かってほしい、それだけだ。
    ……マズイな。子供の権利条約みたいだ」
小鳥 「……ひどいこと言って、ごめんなさい」
僕  「もう逃げない?」
小鳥 「……」
僕  「今夜は、ここに泊まる?」
小鳥 「!」
僕  「大丈夫、誓って変なことはしない。約束する」
小鳥 「じゃあ、とりあえず、一晩だけ」
僕  「ほんと?」
小鳥 「仕方ないでしょ。ただし、言っとくけどね。絶対に変な気
    を起こさないでよね。その時は、全人類男性共通の急所を、
    私のキックがお見舞いすると思ってちょうだい」
僕  「変なことしないから」
小鳥 「ほんとね」
僕  「ほんと、ほんと」
小鳥 「じゃあ、寝ましょ」
僕  「寝ましょ」

       暗転。

声 「にゃ〜お」


                         (おわり)


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(以降の文章は著作権表示なので、印刷する場合もコピーする場合
も、その他いかなる形式における複製においても、削除は禁止しま
す)

この脚本は、日本の著作権法および国際著作権条約によって保護さ
れています。「僕と小鳥」は山本真紀の著作物であり、その著作権
は作者である山本真紀にのみ帰属するものです。

この脚本を全部あるいは一部を無断で複製したり、無断で複製物を
配布することは、固く禁じます。例外として、ダウンロードした本
人が所属するサークルあるいは劇団内で閲覧するための複製のみ、
次の二点が満たされていることを条件に、認めます。

 一、タイトル(『僕と小鳥』 作・山本真紀)から最終行の英文
   コピーライト表示までが全て含まれていること。
 二、テキストを一切改変しないこと。ただし「(はあと)」を本
   物のハートマークに変えることは可。

上演を行う際には、事前に必ず作者の許可を得る事が必要です。問
い合わせは、作者の主宰する「劇団空中サーカス」へどうぞ。

 「劇団空中サーカス」公式サイト http://www.k-circus.com/

上演許可の申請は、出来るだけ早めに行って下さい。この脚本の使
用料は、無料公演・有料公演といった公演形態に関係なく、申請時
期によって変わります。予算の関係で減額してほしい場合は、ご相
談下さい。

 一、公演初日より三週間以上前に、許可申請がされた場合。
   ・・・二千五百円。

 二、それ以降(事後承諾含む)の場合。
   ・・・五千円。

上演のための改変は、作者が上演許可を出した公演においてのみ、
認めます。ただし、原型をとどめないほどの改変はご遠慮下さい。
どこまで手を加えたら良いのか分からない場合は、作者あるいは劇
団までお問い合わせ下さい。
なお、改変された脚本の著作権も作者のものとし、改変者には何ら
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