「X高校事件〜無断上演未遂にまつわるドキュメント〜」

執筆:山本真紀・山本奈穂子

(※プライバシーのため、一部伏字にした部分があります。また、オンライン上のテキストの引用についても、本来なら執筆者名や引用元の参照URLを明示するべきなのですが、省略しました。どうぞご了承下さい)

前文

自分の作品が本となって出版される=無断上演の危険にさらされる、という可能性に、私はうかつにも思い至りませんでした。
今回の事件で、作品を守ることの意義を改めて考えさせられました。実際に、作者の目の届かないところで、作品がいかにぞんざいに扱われているかを知り、非常につらい、情けない思いをしました。
仮にも、芸術の分野で創作活動をしようというものは、作品に対して、真摯な思いで臨むべきではないでしょうか? 作品を生み出すに至る労苦、努力を同じく知る者同士として、尊重すべきではないでしょうか?
それを訴えたくて、このレポートをまとめました。
特定の団体に対する批判ではありません。演劇に携わる者みなが考えるべき課題として、お読み頂ければと思います。

2005.03.14
劇団空中サーカス 山本真紀


2005年3月6日(日)

[ Side M ] マキライオンめざめる

朝起きて日課のネットサーフィン、偶然リンクを辿った先で、「人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜」(*1)という記述が目に入りました。
こりゃ何だ?
何のサイト?
じっくり全文を読んでみました。

(引用・開始)

○○○たちが春公演でやる演劇は、
「人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜」(参考リンク)なのですが、
まぁ、父親役ですか。これを○○○は演じるわけですが、この役は娘役と一緒に出てくるんですね。
…つまり。

娘役がいないと話にならんのだぁぁぁぁぁーっっっ!(爆

(引用・終わり)

文章中の「参考リンク」にはられているリンクをクリックすると劇作家協会へ飛ぶし(*2)、どう読んでも、明らかに私の作品を指し示しているらしいのです。

すでに、2月のあたまから稽古に入っているようです。
しかし、上演の申請は一切聞いていないし受け付けてもいないぞ、と不審に思いました。
パソコン(と言うか、家電製品全般)に弱い私は、演出Nに電話してみました。
朝っぱらから叩き起こされて恐ろしく不機嫌なNに事情を説明すると、Nは一発で目が覚めたようでした。
「ナニ!? 無断上演!?」

[ Side N ] モーニング・グローリー

「無断上演」の一言に、私は一発で目が覚めました。
受話器を耳に挟んで喋りながら、パソコンを起動。作家Mからメールで送られてきた件のページのURLを開いてみました。
うーん。

現時点で「人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜」の上演申請をして下さっているのは一団体だけです。

N「これって、埼玉の所沢北高校さんって可能性は?」
M「ちゃんと申請している団体なら、劇団にもリンクをはってくれると思うけど?」

問題のページを上から下まで読み、リンクからもう一人同じ演劇部員らしき人物のサイトにも飛び、さらに埼玉県教育委員会のページへ進みました。
数分で、所沢北高校演劇部さんではないことが判明。間違いなく無断上演です。
もう少し調べたら連絡するから、と言って電話を切りました。

[ Side M ] マキライオンめざめる(承前)

さて、ウェブの狩人Nの八面六臂の大活躍については、詳しくは述べませんが。その日のうちに都道府県を確定し、「断言はできないけど灰色の学校」を4校リストアップしてくれました。
どうやら、無邪気なヘンゼルとグレーテルが点々と落っことしていったパン屑をたどって、私たちは件の団体に近づく術を得たようです。


2005年3月7日(月)

[ Side M ] コーリング

「限りなくクロに近い」灰色の学校への、電話作戦開始。
演劇部の顧問に直接当たって、しらばっくれられる可能性もなきにしもあらず、という訳で、教頭先生を呼び出してもらって、確認作業に入りました。
最初の学校の教頭先生は、とても感じの良い方でした。
事情を詳しく聞いて、きちんと調査をして下さいましたが、この学校ではないことが判明。
ほっ。
お騒がせしました。
続く3校。
教頭先生不在とのことで、直接顧問の先生とお話ししました。
ある学校の先生などは、
「空中サーカス!? 山本!? 知りませんよ、おたくの名前なんか! 初めて聞きましたよ!!」
ガチャン。
という、ヒステリックな対応でした。
まあ。
用件が用件だから、疑われて頭に来るのも分かるけど、もうちょっと常識身につけた方がいいんじゃないかなー。
収穫なしです。
いや、この4校でないことは分かりました。
じゃあ、……どこ?

[ Side N ] プライバシーという観点

どの学校も微妙な食い違いというか確証が持てないところが不安だったのですが。 お騒がせした学校の皆様、申し訳ありませんでした。

こうなると、問題の演劇部員二人の日記を全部プリントアウトして、その都道府県の教育委員会に送りつけて調べてもらうほうが早いかも? とんでもない量になりそうだけど……。

私は用紙を買いにコンビニに走り、印刷を始めました。
やっぱりすごい枚数です。学校名が分かったら、台本使用料以外に紙代も請求させてもらおうっと。

しかし、プリンターから吐き出される紙の束を見ながら、ふと思ったのです。
確かに、教育委員会なら学校の特定もしてくれるだろうけど、プライバシーという観点から考えると、オンラインで匿名のつもりで書いている日記を見られてしまう高校生たちってかわいそうかも。
せっかく頑張って練習しているわけだし。きっと悪いのは顧問だ。多分彼らに罪はない。

日記のプリントアウトの束を送りつけるのは最後の手段にして、本人たちの名前とか日記の内容とかが表沙汰にならない方向で解決するべく、彼らに直接メールで質問してみるのはどうだろう。

私は作家Mに連絡し、了承を得て、メールを二人に送りました。

Date: Mon, 7 Mar 2005 23:09:24 +0900 (JST)
From: Yamamoto Sisters <********@*****.**.jp>
To: **********@*****.**.jp, **********@*****.jp
Subject: はじめまして。

(メール引用・開始)

○○○さん/×××さん

はじめまして。
劇団空中サーカスの山本奈穂子と申します。

お二人の所属する演劇部が、今度の春の公演で「人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜」を上演されることを知り、メールを差し上げました。

「バラ色」の作者の山本真紀は、うちの劇団の座長なんですよ。
世の中には本当にたくさんの台本があると思うのですが、その中から「バラ色」を選んでくれて、本当にありがとう。
いい舞台を作ってくれると嬉しいです。

ただ、ひとつだけ問題がありまして、実は、この公演について、作者および劇団は一切連絡を受けていません。
このままだと「無断上演」ということになり、最悪の場合は、上演差し止めをさせていただくことになります。

ということで、きちんとした形で上演していただけるよう、顧問の先生と折衝をしたいと思っています。
お二人のどちらでも構いませんから、学校名と顧問の先生の名前を教えて下さい。
その気になれば、調べ上げることも可能ですが、時間が無駄になりますので、どうぞよろしくお願いします。

ご返信をお待ちしております。

追伸:

○○○さん
高校演劇のことは分からないのでお尋ねしますが、「台本の編集」(*3)というのは、一体どういう作業なのでしょうか? 差し支えなかったら教えて下さい。

×××さん
どうせリンクをはるなら、劇作家協会さんだけじゃなく、うちの劇団のサイトにもはって下さい(笑)→ http://www.k-circus.com/

劇団空中サーカス 山本奈穂子

(メール引用・終わり)

まとめると、「あなたがたのプライベートには興味はない。学校名と先生の名前さえ教えてくれたら、それでいい」ということです。

ついでに作家Mにも転送したところ、「何で『作者は激怒している』って書いてくれなかったの」と文句をつけられてしまいましたが……いや、だって、それ入れたら文章の流れが悪くなるんだもん。仕方ないじゃん。


2005年3月8日(火)

[ Side M ] やっぱトップダウンでしょう

草むらに身を潜めて獲物に忍び寄るライオンのように、または、昔の戦国武将のように、私は慎重に行動することにしました。
今日は、某都道府県の高文連の事務局長さんにお電話を差し上げて、
「私の大切な戯曲を、無断上演しようとしている高校さんがいるんです。困ってるんです」
と、チクりました。
事務局長さんはじっくりと事情を聞いた上で、快く、どの学校のことか調査する、上演許可についても周知徹底させる、と約束して下さいました。
当然ですよね。
私が演劇部の顧問をしていたのはもう八年も前ですが、その頃ですら、「上演許可は必ず取って下さい」と、上の方からうるさく注意されたものです。
それが今だに徹底されていない地域があることに驚きつつも、丁寧に「お願い」しておきました。

[ Side N ] 返信待ち

夜です。返事が来ないです。
しかし、問題の演劇部員のサイトに行くと、昨日の夜に日記がしっかり更新されています。
一体どうなってるんだ?
私はもう一度、駄目押しのメールを送ってみることにしました。

Date: Tue, 8 Mar 2005 21:29:54 +0900 (JST)
From: Yamamoto Sisters <********@*****.**.jp>
To: **********@*****.**.jp, **********@*****.jp
Subject: はじめまして(追記です)

(メール引用・開始)

○○○さん/×××さん

劇団空中サーカスの山本奈穂子です。
昨日のメールで書き忘れたことがあったので、ちょっと付け加えますね。

返信(学校名と顧問の名前だけで結構です)はできるだけ早くして下さい。
というのも、うちの劇団の規定では、申請時期によって台本の使用料が変わることになっています(*4)。早くしないと使用料が倍に跳ね上がりますよ。
急ぐのは、あなたたち演劇部のためです。
一刻も早い返信をお願いします。

あともう一つ。
作者は激怒していますから。それだけは覚えておいて下さい。
作者自身ではなく、私が代理でメールを書いているのは、そういった理由からです。

では、ご返信をお待ちしております。

劇団空中サーカス 山本奈穂子

(メール引用・終わり)

昨日のメールは、一応、怖がらせないように(?)、優しい文章で書いてみましたが、今日は少し不機嫌な感じを出し、作家Mのリクエストにより「作家は激怒していますから」も入れてみました。

二人のどちらでもいいから、早く返事をよこしなさい。

しかし、日付が変わる頃、状況が変化して返事を待っていられなくなったのでした。


2005年3月9日(水)

[ Side N ] 逃げるウサギ

真夜中。まだ返事は来ません。
何気なく、もう一度演劇部員たちのページを開いて、とんでもないことに気がつきました。

いつの間にやら、部員Aの日記から問題の日のエントリ(*5)が消え失せ、部員Bのサイトのトップページにこんなお知らせが……

(引用開始)

管理人の個人的事情、というかパソコン内のデータ掃除のためちょっとサイトを休憩させてもらいます。
あとサイトの画像リンクがいくつか繋がってないようなので・・・。
期間は長くても一ヶ月以内に終わると思います。(以下略)

(引用終わり)

あー、消してしまえば、なかったことにできると思ったのかな?
ばれさえしなければいいって思ったのかな?
私はとっても悲しいです。

作者のため、劇団のためなのはもちろんですが、一人の芝居人として、これは許すことができません。何が何でも捕まえなければ!

私は最初から、ヘンゼルとグレーテルのパン屑を辿りなおすことにしました。
日記を全て読みかえし、某都道府県の教育委員会のウェブサイトをあちこち見て回り、新聞社のニュースを検索し(これは空振り)、誰でも知っている某有名企業のサイトをちょっとのぞき(大ヒット!)、etc、etc。
そして夜が明ける頃、ただ一つ、条件に完全に合致する高校を見つけたのでした。(*6

[ Side M ] 論理の破綻

午前6時30分。

枕もとの携帯が鳴り、アラームだと思って問答無用で切ってしまって再びおやすみモードへ……ん? いつものアラームと、曲が違ったような。
わあっ!
ごめん、N。
電話だったのね。
かけ直しました。
Nは興奮状態で、徹夜明けのハイテンションでした。
Nの説明を聞き、私たちは、もう一度「電話作戦」を試してみることにしたのでした。

午前8時40分。

もうSHR(*7)は終わっているだろう。
教師たちが職員室に戻る頃と踏んで、私は待ち切れずに弾む胸を押さえて、受話器を取り上げました。
間違えないように、一つ一つ、ボタンを確かめつつ押しました。
「おはようございます。劇団空中サーカスの山本ですが、演劇部の顧問の先生をお願いします」
呼び出しを待つそのわずかの間の、ああ、何と心楽しかったことか!
顧問の先生が出ました。
私は、はっきりと名乗った上で、単刀直入に聞きました。
「演劇部が春公演を予定なさっていると聞いていますが、日時と演目を教えて下さい」
「あのっ、そのっ、会議中なのでっ!」
どがしゃっ。
唐突に電話は切られました。
一方的に。

……これは。
果てしなく、クロい。
この学校に間違いないと思っていたけど、やっぱしそうかもー!!!

午前9時。

さすがに「会議」も終わっているでしょう。
今度は、教頭先生を名指ししてみました。
下っ端が駄目だった場合は、上役を、というのはセオリーです。
教師の接遇マナーがなっていない、という世間一般の見方を知っている私は、自分でも、物凄ーく、丁寧な態度を心がけてみました。
幸い、教頭先生は、感じの良い方でした。
事の次第を聞いて頂いた上で、ヘンゼルとグレーテルのパン屑をいちいち二人で数え上げ、私と教頭先生は、ある結論に達しました。
「確かに、ウチの学校に間違いありません」
「そうですか。残念です」
「はい。残念です」
私は、顧問の先生の失礼な電話の対応について、不快に思っていることを婉曲に伝えました。

教頭先生が、調査を約束して電話を切ってから40分後。

私の携帯が鳴りました。
着メロの軽やかな「蒲田行進曲」を無粋に遮って、耳に入ってきた消え入るような声。
「あのう、○○高校の演劇部顧問の○○ですぅ」

顧問の先生に私がした仕打ちは、残酷だったかも知れません。
同業者(*8)として、そういう立場に立ってしまった彼に、心から同情を覚えます。
しかし、教師としての私は可哀相だと思っていても、ヘボはヘボでも作家としての私は、言うべきこととすべきことがあり、どうしても譲れませんでした。
彼は、校内の公演だから上演許可は必要ないと思った、と弁明しました。
私は、校内だろうがどこだろうが、客が一人でもいたらそれは上演です、と教えてあげました。
さらに、電話を一方的に切るのは無作法ですよ、セールスだって一応話は聞いてあげるものですよ、と教えてあげました。
私は、幻想を抱いていたのだと言いました。
自分の脚本を選んでくれた人たちとは、心が通い合うのではなかろうかと。
何かを感じ取って選んでくれたのだろうからと。
でも、それは幻想で、単に人数とか台詞の喋りやすさとかで選んだってことなんですよね、と軽く愁嘆してみせました。
しどろもどろになりながら、しかし顧問は、「部員に諮る」と言うのです。
顧問の一存で、今この場で上演許可を申請すればいいのに、えらい弱気な顧問やなあ、と思いました。
普通、生徒にいちいちそんなこと聞きません。
「上演許可取っといてやったでぇ」
と事後報告するくらいですか。
まあ、この学校にはこの学校のやり方があるのだろうと、午後3時に期限を切りました。

午後3時前。

再び「蒲田行進曲」が鳴りました。
顧問が長々と喋り始めました。
部員のうち二人が、2月26日に劇団からメールを貰っていたのだけれども、テスト勉強で忙しく、気が付いたのが昨日だったということ。
勿論、彼らは顧問に相談するつもりだったこと。
「おかしいですね。メールを出したのは一昨日です。その直後、一人は日記を削除し、もう一人はメールの返信もせずにホームページを更新していますね。どうなんでしょう」
「それは……分かりません」
かずま役の生徒が怪我をして、役者が足りず、果たしてこの脚本で上演出来るかどうか分からないので、猶予が欲しいということ。
「稽古を始めたのは、その生徒が怪我をするだいぶん前からですよね。どうしてその時点で申請しなかったんですか」
「……」
結局、その学校の学年末試験が終わるまで、結論を待って欲しいと言われ、私はOKしました。
いろんな稽古の修羅場を見てきていますから、公演前に台本差し替えなんてよくあることだし、と寛容に私は思ったのでした。

ところが。
この措置に、うちの劇団で一番温厚な人が怒ったのでした。
「いけしゃあしゃあとウソつく生徒! 上演するかどうか分からんから待てとぬかしやがる顧問! 天誅!」

知りませんよ。
私は、知りません。
実際、同業者として、高校演劇の現場を(ひく〜いレベルの現場を)知っている立場として、私はこの学校を弁護すらしたのです。
私が、一番発火点が低いのは事実ですが、被害は大したことはないんです。
普段なかなか怒らない人が怒る、これが怖いのです。

続きはまた明日ということで。


2005年3月10日(木)

[ Side N ] 遅すぎた返信

いや、私「天誅」とまでは言ってないと思うんだけど(笑)

えーと。
作家Mによると、顧問の先生は「生徒に謝罪メールを送らせる」と言っていたそうです。
しかし、徹夜明けで仕事に行き、さらに出張で長時間電車に揺られ、へろへろになっていた私はその日のうちにメールチェックはできず。今朝になってから、一通だけ届いているのに気がつきました。
おや? 二人分で二通来るはずだと思ってたんだけど。変ですねー。(*9

Date: Wed, 9 Mar 2005 23:59:44 +0900 (JST)
From: **** <**********@*****.**.jp >
To: Yamamoto Sisters <********@*****.**.jp>
Subject: はじめまして

(メール引用・開始)

劇団空中サーカス 様

返信が遅れてしまい申し訳ありません。最近メールの確認をしていなく気が付きませんでした。

先程そちらのサイトへ行かせてもらいましたが、上演を行う際には事前に必ず作者の許可を得る事が必要と記述がありました。また優秀新人戯曲集を再読しましたところ本の末尾に連絡をとるようにと書いてありました。

その他にもいろいろと調べますと「人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜」も著作権はブロンズ新社さんではなく作者である山本真紀さんにあることもわかりました。

当然のことながら勝手に台本を使われることは不快でしょうし、山本さんがお怒りになられるのももっともだと思います。

台本決定にあたりよく調べていなかった私達に越度があることは明らかです。深くお詫び申し上げます。

部員一同今一度、著作権について学習しているしだいです。

本当に申し訳ありませんでした。

追伸にありました台本の編集についてなのですが、内容としては行間を開ける等メモをするためのスペースを作り役者がアドバイスを書き易くすることです。

○○立○○高等学校演劇部 ××××

(メール引用・終わり)

……絶句。
まあ、何と言いますか、すっごい空疎なメール。
部員一同だけじゃなく、顧問にも著作権について学習させろっつーの。
それに、公立高校の一年生なら、必修の情報の授業で、著作権については勉強していないはずがないと思うんだけど。

そもそも、このメールだと事実関係がさっぱり分かりません。
そもそも「誰が」「いつ」「どういう理由で」無断上演しようって決めたの?

「著作権はブロンズ新社さんではなく作者である山本真紀さんにあることもわかりました」そうですが、じゃあ、ブロンズ新社さんのほうに上演申請をしたっていうことかな? ブロンズ新社さんに電話して、そんな事実があったかどうか聞いてみようかな〜?

他にもツッコミどころは山ほどありますが……。
実のところ、作者および劇団側の結論は、昨夜の段階で決まっていました。
だから、本当に意味のないメールになっちゃったんですよね。

さて。
昨日、作家Mはうっかり公演の日時を聞き忘れたらしいのですが、「謝罪のメール」にも書いてありませんでしたので、それを問い合わせるという名目で、今度は私が電話をかけました。

顧問の先生に日程を聞くと、4月11日午後2時の公演だとか。まあ、新歓公演だから、その時期だろうなとは思っていましたが。
私は半ば用意していた台詞を言いました。
仮に上演していただけるとしたら、けがをしたというかずま役の子の代役は、練習期間が一ヶ月もない状態で舞台に立つことになります。そんな状態でいい舞台が作れるとは失礼ながら思えませんし、私どもとしてもやっつけ仕事のような舞台に台本を提供したくはありません。お返事を待つまでもなく、こちらから上演差し止めということにさせていただきます。
なお、今回の件に関して、調査のために大量の印刷物が発生しましたが、その経費については別途請求させていただきます。どうぞよろしくお願いします。
「はい、分かりました」というお返事だったので、では後ほど文書にしてお送りしますと言って私は電話を切りました。

まだまだ仕事は終わりません。
上演許可書ならともかく、差し止め書なんて書いたこともないぞ。どうやって書けばいいんだ???


2005年3月11日(金)

[ Side N ] 書類発送

上演を禁止する通知書を作成し、送付状を添えて投函しました。願わくば、今回が最初で最後でありますように。
以下に全文を記載します。

(通知書・開始)

通知書(*10

○○立○○高等学校 演劇部 殿

貴団体が下記(1)記載の著作物を下記(2)の要領で上演することを、著作権者の権利において禁じます。
また、明らかに「無断上演」を意図した行為に対する抗議として、2006年4月末日まで、貴団体に対し、(1)を含む劇団空中サーカスが管理する全ての著作物の上演を禁止します。

(1)
作品名:人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜
作者名:山本真紀
備考:「優秀新人戯曲集」(劇作家協会編/ブロンズ新社)所収

(2)
上演日等:2005年4月11日 午後2時より(予定)
上演会場:○○立○○高等学校内
備考:平成17年度新入生歓迎公演として

2005年3月11日
劇団空中サーカス
山本 真紀

(通知書・ここまで)
(送付状・開始)

拝啓 時下益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。
 さて、山本真紀作「人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜」上演の件について、先日お電話でお伝えした上演差し止めの通知書を送らせていただきます。単なる差し止めではなく、来年の4月末日まで私どもの劇団が管理する全ての台本の上演を禁止しておりますので、ご確認下さい。
 4月末日というのは、現在演劇部に在籍する生徒が全て引退するまでという意味を込めています。生徒だけでなく顧問の先生にも、著作権についてよく考えていただければと思います。

 なお、今回貴団体が無断上演をしていることを調査して事実確認するにあたり、インターネット上の書き込み等を、バックアップとして、大量に(A4用紙で200枚超)プリントアウトをせざるを得ませんでした。
 実際、私が問い合わせのメールを送った直後に該当する書き込みが削除されたりしましたので、必要な行為であったと考えております。
 この、本来の劇団の活動では発生する筈のなかった経費について、プリントアウト1枚につき10円として計2,000円(端数は割引)を、貴団体に対し請求いたします。恐縮ですが3月18日(金)までに下記口座へお振込み下さい。振り込み手数料はご負担下さい。

(口座情報省略)

 同じ演劇を愛する者として、創作物に対する真摯な思いを、教育の現場で育んでいって頂ければと思います。厳しいことばかり申しましたが、これはお願いです。では、どうぞよろしくお願い致します。敬具

平成17年3月11日

劇団空中サーカス
制作 山本奈穂子(*11

○○立○○高等学校 演劇部 殿

(送付状・終わり)

念のためコピーをとり、事後報告を兼ねて、今回お世話になった某都道府県の高文連の事務局長さんと某高校の教頭先生のお二方にも送ることにしました。
あと、「謝罪メール」の返信も礼儀として書こうと思っているのですが、これは週末にまわします。


2005年3月13日(日)

[ Side N ] 最後のメール

夜、演劇部員二人にメールを送りました。

Date: Sun, 13 Mar 2005 23:55:09 +0900 (JST)
From: Yamamoto Sisters <********@*****.**.jp>
To: **********@*****.**.jp, **********@*****.jp
Subject: Re: はじめまして

(メール引用・開始)

○○○さん/×××さん

劇団空中サーカスの山本奈穂子です。
これが最後のメールになります。

もう顧問の先生からお聞きになったかもしれませんが、誠実な対応をしていただけなかったという点から「上演差し止め」とさせていただきました。

顧問の先生にももちろん落ち度はありますが、あなたたち二人のとった行動もまた、「無断上演の事実を隠蔽しようとした」としか見えないものでした。私がメールを送った直後に、日記の該当のエントリが削除されたり、サイトが一時停止したりするなんて、どう考えてもおかしいですよね。
あと、先生に「26日にメールを受け取っていた」と嘘をついた(*12)ことも。

本当に残念に思います。

さて、○○高校演劇部さんには既に上演禁止の通知書を発送済みですが、一応このメールの一番下にも、内容を転載しておきますね。
部員の皆さんのことにも言及していますので、読んでみて下さい。

最後になりましたが、このメールに返信は不要ですので。では、失礼します。

劇団空中サーカス 山本奈穂子

(メール引用・終わり)

書きたいことの半分も書けていないのですが……。
同じ芝居をやっている者同士なのに、こんなやりとりをする羽目になっているのが、あまりに情けなくて情けなくて。もう一刻も早く済ませてしまいたかったんです。

今の気持ち?
ただ、悲しいです。


後付

繰り返しますが、特定の団体に対する批判ではありません。上演権は、著作者が当然所有すべき権利ですが、この実例のように蹂躙されることもあります。
今後このような不幸な出会いがないことを願って、筆を措きたいと思います。

山本真紀


*1: 山本真紀が書いた台本のタイトル。第10回劇作家協会新人戯曲賞で最終候補に残り、他の5編の候補作と共に『優秀新人戯曲集2005』(劇作家協会編・ブロンズ新社刊)に収録・出版された。

*2: ジャンプ先は、正確には劇作家協会のサイト内の「第10回劇作家協会新人戯曲賞最終候補作発表」というページ。 http://www.jpwa.jp/main/inform/10new033.html

*3: 「○○○さん」の日記に書いてあったこと。

*4: 劇団空中サーカスでは、オンラインで公開している台本の末尾に全て同じ規定を掲載しており、「公演初日より三週間以上前に、許可申請がされた場合」は普通のお値段、「それ以降(事後承諾含む)の場合」は倍額になります。

*5: 「○○○たちが春公演でやる演劇は、「人生はバラ色だ 〜なっちゃん空を飛ぶ〜」」の文面がある日の日記。

*6: 「WWW上にあって万人がアクセスできる情報しか使ってません。私は素人なのですごく時間がかかりましたが、分かる人にはすぐ分かることだったのかも?」 by N

*7: ショート・ホームルーム。

*8: Mの本職は高校の国語教師。

*9: 「顧問の先生からも含めて三通が正しいのでは?」 by M

*10: 本来なら「同一性保持権」や「差止請求権」について明解すべきでしたが、時間がなかったということで、こういう簡易な形式になりました。

*11: 「制作チーフのEの許可をもらって、今回は私が『制作』という形にしました。本来は『制作補』が正しいです」 by N@でも本当は演出です

*12: 「この『嘘』についてはちょっと不可解に思っています。そんな以前にメールを受け取っておいて二人とも気がつかないなんて変だし、どう考えても自分たちの立場を悪くするだけじゃないでしょうか」 by N

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