「上演権」は誰のもの? 〜演劇脚本に関する著作権について〜

執筆:山本真紀

はじめに

公演が迫っているけど、脚本がない!
いつも書いてくれていた先輩が卒業しちゃった!
脚本を書ける人がいない状態が続いている……。

よく聞く話ですね。
そんな劇団・演劇部はた〜くさん、あります。
脚本を書ける人材を常に確保するのは、難しいです。

じゃあ、ネットから、書籍から、脚本を探せばいいのでは!?
昔、所属していた人が書いた脚本を演ってもいいし。

ここで、ちょっと立ち止まって、考える必要があります。
「上演権」について。
上演権、とは、その作品を上演する権利を言います。
この権利は、著作者だけが持っているものであって、他の人にはありません。
だから、脚本を上演するには、著作者の許可が必要です。

たかが芝居の脚本を使うのに、許可がいるのか。
面倒だな。
と、正直思われるかも知れません。
でも、上演権について、また、上演権が発生するおおもとである著作権について、きちんと学習していないと、痛い目に遭うこともありますよ。

という訳で、ここでは、上演権と著作権について、述べようと思います。

難しいことではありません。
演劇脚本に関する著作権について、一緒に、簡単におさらいしてみませんか。
Shall we go?


上演権と演奏権

(引用・開始)
(上演権及び演奏権)
第22条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
(引用・終わり)

上記の通り、著作者は、上演・演奏する権利を「専有する」とあります。つまり、上演権は、著作者個人の所有物であって(法人など他団体に委託している場合はこの限りではない)、他の誰のものでもありません。だから、他の著作者の著作物を上演したいと思ったら、まず、著作者本人の許可を得ることが必要ですね。

しかし、面倒な手順でもあります。
著作者自身の意識もまだ低く、常に連絡を取れるよう、連絡手段を著作物に掲載している著作者は少ないです。


営利を目的としない場合

ここで、いちいち許可を得なくてもいい方法をお教えしましょう。許可を得なくても上演できる「抜け道」がある、と謳っている条項があります。以下に掲げる条文を読んでみましょう。

(引用・開始)
(営利を目的としない上演等)
第38条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
(引用・終わり)

(1)営利目的の上演ではないこと
(2)観客から料金を取らないこと
以上の条件を満たしていれば、許可なくして上演することは可能です。
それならば、特に、高校演劇や大学の演劇サークルなどで行う上演に関しては、大抵の場合スルーできるのでは?
と思われる方もいるでしょう。


同一性保持権について

しかし。実は、これには、「落とし穴」があるんです。
もう一つ、別の条文を読んでみましょう。

(引用・開始)
(同一性保持権)
第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
1.第33条第1項(同条第4項において準用する場合を含む。)、第33条の2第1項又は第34条第1項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
2.建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
3.特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
4.前3号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
(引用・終わり)

同一性保持権、というのは、簡単に言えば、「内容を勝手に変えるな!」ということです。
例を挙げれば、書かれたト書きを、忠実に再現できますか?
本番の舞台で、役者が絶対に台詞を飛ばしたりとちったりしない、と保証できますか?
一言一句、脚本通り、間違えないで再現できて初めて、「同一性」が保持されるのです。

著作者にとって、著作物は、自分の心血を注いで作った、大事な大事な作品です。
伝えたいことがあるから、書いているんです。
この台詞、このト書きでないと駄目なんだ、という気迫をもって、表現を吟味して書いているんです。
それを勝手に変えられるのは我慢できない、という心情を理解して下さい。
著作物を大切に扱うことによって、著作者に対する当然の敬意を表しましょう。

但し、最後の「4.」の「やむを得ないと認められる改変」これの解釈が難しいですね。
実際には、無断上演したことが著作者の耳に入った場合、それが本当に「やむを得ない改変」だったのかどうか、ということが争われることになると思います。
ケース・バイ・ケースですから、予想がつきません。
笑って許してくれる著作者もいれば、激怒する著作者も当然いるでしょう。
それを考えれば、演劇に関する上演権は、必ず許可を取った方が無難だと言えます。


差止請求権について

(引用・開始)
(差止請求権)
第112条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作権隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。 2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
(引用・終わり)

いくら一生懸命稽古していても、許可を取ることを怠った場合、こういう手段に訴えられても仕方がない、ということを知っておいて頂きたいと思います。実際に、上演数日前になって差し止められたケースもあるそうです。
せっかくの活動を無駄にしないために、また、舞台芸術に関わる者として、演劇を愛する者として、当然の知識を身につけ、権利を侵害しないように気をつけたいものです。


おわりに

著作権をめぐる判断は、時代の変化とともに、めまぐるしく動いています。日々移り変わる情報を貪欲に摂取し、現在における著作権とは何かを学ぶことが大切だ、と言えるでしょう。

どうでしたか?
簡単だったでしょう?
つまり。
一言で言えば、「上演の許可は絶対取ろうね」ということです。

おしまい。

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